私、人にものごとを教えるのが、あまり上手ではありません。
私はシゲオ
「球がこうスッと来るだろ」
「そこをグゥーッと構えて腰をガッとする」
「あとはバッといってガーンと打つんだ」
昭和の大スター、長嶋茂雄監督みたいな感じで。
説明が、非常に感覚的というか。
それがある程度「ああ、そういうことね」と理解してくれる相手ならいいのですが、
ピンとこない人の方が、大半なんですよね。
家庭教師のアルバイト
そんな教え下手な私が、大学時代に人から誘われて、なぜか家庭教師のバイトをすることになりました。
教え子は、中学2年生の女の子、Mちゃん。
このMちゃんはですね。
中学2年生なのに、分数が理解できていない、という。
なかなかの強者でした。
それでもご両親の期待は大きく
(だったら小学生のうちになんとかしとけよと思いましたが)、
家で「勉強しろ」とうるさく言われ続け、すっかり勉強嫌いに。
当然、学校の勉強にもついて行けず。
私が教えに行くと、一応机には向かうのですが、途中ですぐ集中力が切れる。
来週までにここまでやっておいてね、という宿題も全然やっていない。
それでもなんというか、憎めないキャラで、私にも懐いてくれていました。
彼女が勉強に気が向かない時は、2人とも好きだった椎名林檎の話ばっかりしていたような気がします(勉強を教えんかい)。
勉強よりもむしろ
宿題は全然やってこないくせに、彼女には熱中している趣味がありました。
それはお裁縫。
ジーンズを解体して、スカートにリメイクしたり。
斜め掛けのショルダーバッグを手作りしたり。
それが、中2とは思えないクオリティ。
こういうのを作るのが大好きなので、何時間でも取り組めるのだそうです。
感嘆する私に、その出来栄えを嬉しそうに報告してくれて、
「次はこんなのを作りたい」とデザイン画まで見せてくれる彼女を見て、
私はもう素直に、
「そっちの道に進んだら?」
と思いました。
バイト、道半ばで
それでも、親御さんからバイト代をもらっている以上は、しっかりやらなきゃということで。
分数については小学生のドリルからやり直したり、教え方を工夫したりする努力はしてみたのですが。
教え始めて数か月が経ったころ、そろそろ進学先を検討し始めなくては…となったとき。
私は率直な感想として、
「家庭科とか、被服を学べるところを検討してもよいのでは」
と伝えました。
高校で好きなことをする目標ができれば、そのために必要な勉強なら頑張れると思ったので。
本人もそうしたい、と言っています。
ですがご両親はとにかく、都立の普通科に通わせたいとおっしゃる。
普通に高校に通い、行けるなら普通に大学にも通い、選択肢が多い中で職業を選べるのが子どもの幸せだ、と信じていらっしゃる様子。
いやいや、お母さん。
小中高と成績がよく、名の通った大学に通っていて、見かけ上選択肢が豊富でも、何がしたいのかさっぱりわからなくて、就職活動を前に絶望的に途方に暮れている大学生が目の前に座ってますよー。
それよりも、自分の才能を活かして進みたい道がはっきりしている娘さんが、好きなことを極めていく方を応援した方がよいのでは…?
って思うんですけど…?
まだまだ社会経験が少ない大学生の提案はあっさり却下され、間もなく私は家庭教師をクビになりました。
今後は、個別指導の塾に入れて、みっちり指導を受ける予定とのこと。
ええ、ええ。
勉強をきっちりさせるなら、教育学部でもない、やたらと擬音の多いミスタージャイアンツよりも、塾のプロの先生に教えてもらう方がよいと思います。
でも、それでMちゃんは幸せなのかなぁ。
なんだかもやっとしたまま、でもどうすることもできず、私の初めての家庭教師バイトは打ち切られました。
最後のあいさつのとき、まるでドナドナの仔牛のような目でこちらを見ていたMちゃんの顔が忘れられません。
ごめんね、力不足で。
この人が言うと説得力が違う
当時は就職氷河期。
大学新卒の就職率が5~6割と言われた時代です。
親御さんの教育方針が保守的な方向に向かうのは仕方がなかったかもしれませんが。
3月のイチローの引退会見での子どもたちへのメッセージを聞いて、久しぶりにMちゃんのことを思い出しました。
自分が熱中できるもの、夢中になれるものを見つけられれば、それに向かってエネルギーを注げるので。そういうものを早く見つけて欲しいなと思います。
未熟な女子大生じゃなくて、イチローが言ってたら説得力も違ってただろうな。
その後Mちゃんがどうなったのかはわかりません。
親の希望通り、普通科の高校に行っても、その先に服飾系の学校に通うこともできるわけですし。
もしかしたら興味が別のことに移って、「より選択肢の多い」進路の方が結果的によかった、となってたかもしれません。
迷わず行けよ
一つの会社に勤め続けるのがスタンダードではなくなる時代が来ています。
今ある仕事がどんどん消滅していくかもしれない。
この先、まんべんなく全教科で得点できることが、それほど価値を持たなくなり、「自分はこれが得意です」と言えるものがいくつかある人ほど重宝される。
そうやって好きを極めて行く人生のほうが幸せ。
であれば、その「得意」なものを早いうちからスタートして、時間をかけて育てていく方が、いいと思うんだよなぁ。
20年近く経っても、私の気持ちは変わりません。
だから自分の子どもたちも、Mちゃんのように
「これが好き!どうしてもこれがしたい!」
と言ってくれたら、多少イレギュラーでもその道に進ませる気概は、親として持っているつもりですが。
長男に
「おめえさんは何か極めたいものはないのかぇ」
と聞くと、
「ガンプラ」
と返ってきました。
ガンダムプラモデル。
「お…、おう。」
えーと、
とりあえず、何?
ロボット工学とかそっち系ってことで、いいのかしら?
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